大学生の友人から、電話がかかってきた。
「凄い映画を観たんですよっ!!」
「へえ~、なんていう映画?」
「子猫物語ですっ!!」
「へ?」
『子猫物語』は、80年代の映画だ。
なんで、今頃、そんなもの観たんだ!?
話をよく聞くと、大学の授業で映像の一部を観せられたとのこと。
『市民ケーン』のワンシーンと比較する授業なのだそうだ。
なんで『市民ケーン』???
世界の名画ベストによく挙げられる作品だ。
新聞王の盛衰の物語だ。
『子猫物語』と、なんの接点が?
『市民ケーン』には、犬のシーンがあって
動物をどう撮ってるかの違いを
検証するという内容だという。
その彼は『子猫物語』に、
なにやら異様なものを感じたそうだ。
私は観てないが、ムツゴロウこと畑正憲が
監督したその映画について黒い噂は
耳にしたことがある。
気になってネットで予告編を観た。
いたいけな子猫が、
大自然を冒険するという物語のようである。
「愛と勇気の物語」
「小さな動物たちの素晴らしい冒険」
「さまざまな出会いと別れ」
「ほのぼのとした愛のファンタジー」
「感動のメルヘン」
「いのちの音が聞こえてきます」
ドキュメンタリー風の映像に
美辞麗句が連続して重なる。
しかし、明らかに作為的な映像なのである。
カモメの群れにつつかれるチャトラン(子猫の名前)
川を木箱に乗って流れてゆくチャトラン
荒波の海からはい上がるチャトラン
CGなんて無い時代だ。
全部、生だ。
そして、それは人間がわざわざ子猫を
危険な場所へ連れて行って撮影したものである。
チャトラン百匹説というのを聞いたことがある。
撮影中に、何匹もの子猫が死んだということだ。
一見、ファミリー向けの良心的な作品が、
実はすごくダーティー・・・・・・・
若い友人は、直観で見抜いた。
彼は、ムツゴロウについては
よく知らないというので
それから、延々、1時間以上
ムツゴロウさんという人が
かなりダーティー&ワイルドである
という情報を話した。
『子猫物語』は、おかしい映画である。
まぁ、そんな映画を教材にする授業もおかしいし、
その映像を観て興奮して電話してくる人もおかしい。
また、そんな電話をもらって
延々、嬉々として喋ってしまう自分もおかしい
と気がつき、
こうやってブログに書いてしまうのも、
ちょっとおかしい。
まったく、どうしようもない。
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久々の登場です。
パソコンが壊れたので修理に出していました。
ナタリー・ポートマン主演の
『ブラック・スワン』をDVDで観た!
洋画の新作で話題作だ。
その手のものには、近頃、積極的に
近づかないようになっていたのだが、
この作品は、強烈に観たくなった。
ナタリー・ポートマンの役者としての成長が
ウリになっているらしい。
彼女の出世作『レオン』にはまったく感心しなかったし、
『スター・ウォーズ』シリーズでのお姫様も、
まぁ、キレイになってきたなぁといった程度の
ひっかかりは極めて薄い感想しか持たなかった。
なので、特にナタリー・ファンでもない私だったが、
パッケージの彼女の顔と、
レンタル屋に流れていたデモ映像を観て、
「これは、俺がかなり好きなジャンルの映画かも」と
期待感を煽られてきた。
良い評判も聞こえてくる。
監督の前作『レスラー』(ミッキー・ローク主演)が
かなり魂に響いてくる作品だったし。
こいつは、観るしかないでしょー!!
観る前から、高揚感を抱くなんて、久々だな。
物語を大雑把に述べると、
『白鳥の湖』の主役に抜擢された
若手バレエ・ダンサーのナタリーは、
母子家庭で育ち、性格は真面目で純情。
だが、どこか神経症的な面がある。
演出家には「白鳥は完璧だが、黒鳥がぜんぜん駄目」と
プレッシャーをかけられる。
性に対して潔癖な性格であるがために、
奔放な黒鳥の演技が、どうもはじけないのだ。
演技での葛藤、常に自分を庇護(監視?)しようとする母への葛藤。
憧れていたプリ・マドンナの引退にまつわる事件。
自分とは全く正反対の奔放なダンサーへの羨望と嫉妬。
様々なプレッシャーが入り乱れ、彼女の精神のバランスが
静かに確実に壊れてゆく・・・・・・・
常に、自信なげで緊張した面持ちのナタリー。
なにかがおかしい。
なにかが。
表情がガンガン変化するナタリー・ポートマン。
凄い!惚れた!!
全編、息苦しい緊張感が漂っていて、
何気ないシーンでも、なにか不穏なことが起こる、
または隠されているのではと、観ているほうも
気が抜けなくなってくる。
物語が進むにつれ、彼女の狂気が明確になってゆき、
ショッキングなシーンも連発。
その度に、こちらの心臓もドキリ。
サイコ・ホラーとしては手堅い演出だ。
彼女を、真に追い込んでいるのは誰か?
といったようなミステリ的要素もあり、ぐいぐいと
物語に引きずり込まれる快感がある。
陰惨で最悪な結末さえ想像してしまう。
だが、ラストのラスト、クライマックスでは
私の心は震え、涙まで出そうなほどの至福に
いたった。
ああ、こうだよな、これでいいんだよな。
完璧な作品の為なら、あらゆるものを利用する。
他者を傷つけることもいとわない。
自分の狂気にも歯止めをかけない。
なんの為に?
至福、一瞬の至福のためさ。
映画を観る至福。
なにかしらの表現をする至福。
ホセ戦を闘い終わって
真っ白に燃え尽きた矢吹丈の姿を思い出した。
「狂ってるだって!?
生まれてこのかた、まともだったことなんて
一度もありやしなっかたよ!」
とは、映画『ツィゴイネルワイゼン』での
原田芳雄の台詞。
死にたくはないが、狂いたいなぁ。